大判例

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仙台地方裁判所石巻支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人阿部正治を死刑に、同安住進を懲役十五年に処する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

被告人阿部は昭和十六年三月石巻尋常高等小学校高等科二年を首席で卒業し、その後東北振興パルプ会社の工員、石巻市民友新聞の記者、進駐軍雑役夫及び石巻市宮城産業新聞記者などをして昭和二十五年七月頃から職業安定所の斡旋による日傭となつた。然しもともと進学の希望を持つていた同被告人は家庭が貧困でこれを許さなかつたので、同年四月石巻新制高等学校夜間部に入学したのであるが其の内容に満足出来なかつた上に卒業までには四年間の月日を要するので、寧ろ独学で新制大学の入試認定試験を受け大学に進んだ方が近道だと考え、同年七月右夜間部を退学、前記日傭の仕事の余暇には石巻市図書館に通つていた。その間同図書館千葉司書に対し不満を抱くような事情もあつた。けれども向学の念に燃える同被告人は上京して、就職しながら夜間の学校に入り度いと熱望し、それについて旅費、生活費等に充てるべき金が欲しいと考えていた。そして前記のように図書館に出入して居た関係上自然相被告人安住とも親しく交際するようになり、同被告人に其の希望を打開け東京行を勧めるに至つた。被告人安住は昭和二十一年三月石巻商業学校を卒業し、その後進駐軍雑役夫次いで石巻市役所臨時雇に採用され石巻市立図書館勤務となり同二十二年三月雇となつたが、翌二十四年七月頃から石巻市鋳銭場三十四番地石井玲子(十七年)と恋愛に陥り肉体関係を結び其の結果同女は姙娠するに至つた。その間右図書館司書千葉正視に感知されてその訓誡を受け「今後石井と交際しない」旨の誓約書を書かされたが、依然同女との関係を断つことが出来ず昭和二十五年七月相携えて山形方面に家出するに至つた。家出から帰つて見ると、同被告人の父は右の恋愛関係がもとで千葉司書の申入れで七月二十五日附で既に退職願を提出して居り退職を余儀なくされ、又石井との関係も周囲の圧迫で交際を断たざるを得ない羽目に陥つた。その後八月十日石巻土木出張所の雇となつたがそれは二ケ月間だけの臨時ということであつた。その頃相被告人阿部から前記のように東京行を勧誘されたので石井玲子との関係の破綻就職の不安定に駆られて懊悩を続けてゐた際であつたから、いつそ石巻を離れたいと考え被告人阿部の言に同調するようになつて居たところ

第一、同年八月十七日夕刻偶々被告人両名が石巻市内海橋通辺を散歩した際、被告人阿部は被告人安住に対し「自分に一寸した仕事を手伝つてくれれば上京の旅費や一、二ケ月間の生活は保証する」と話し其の時はそれだけで別れその仕事の内容は告げなかつたが、同月十九日石巻小学校校庭で労働祭の催しがあつたので同日夕刻同校庭で相会しその際被告人阿部は被告人安住に対し「いろいろ工面してみたが上京の費用は出ない、こうなつたら手段を選ばない、俺も君も館長の千葉には恨がある、毎日曜日館長は無断で図書館を休んでいる、そのことだけを材料にしても金を出させることが出来るが、そんなことはまどろしい、二十一日は俸給日だろう、行きがけの駄賃に千葉をやつつけて、その俸給を取つて東京に出よう」と勧誘した、これを聞いた被告人安住は一時その話に吃驚したが、ついにこれを承諾するに至りここに被告人両名は共同して千葉正視(当時五十六年)を殺害して金員を強奪しようと謀つた。なお被告人阿部は其の際に「その時の用意は全部俺がやつてくる」というて自ら殺害の用意一切を引受けた。然し同月二十一日の宿直は同館職員遠藤和夫であり、千葉司書は二十二日であることを確め被告人阿部は被告人安住に対し二十二日夜前記犯行を決行する旨を伝え、同日午後一時頃同図書館の帰りひそかに同館一階北側表道路に面した物置の硝子戸のさし釘を抜いて侵入口を作つて置いた。同日午後八時過ぎ自宅から黒の背広上衣、男物紺縞ズボン(証第四号)黒ズツク靴(証第五号)、作業用中古軍手を風呂敷に包み、これと炊事場にあつた棍棒(長さ約二尺直径約七糎)を持つて石巻市公民館前で被告人安住と落合い、共に図書館に至り前記の侵入口からこれらを物置の中に抛り込んで引返し、被告人安住に「明朝三時に間違いなく此処に来い」と告げてその場は一旦別れた。同夜被告人阿部は同市坂下町百七十番地木村ゆき方に泊つたが、翌二十三日午前二時四十五分頃ひそかに同家を出て前記図書館に向つた。そして前記の侵入口から館内に入り先づ二階に昇つて事務室の前で内部の様子を窺い千葉司書が熟睡して居ることを確めて一旦階下に降りて来た。一方被告人安住も右時刻頃自宅を抜け出して図書館前に来て居つたので被告人阿部は同被告人を館内に引き入れた。被告人安住は前記事務室の扉は紙片で開けることが出来る旨被告人阿部に話し二階閲覧室から書籍万葉集のケース(証第一号)の一片(証第二号)を引裂いて来て阿部に渡し、被告人阿部は其の間着ていたシヤツ、ズボンを脱いで前記用意の上衣ズボンに着替え靴を履いた。被告人安住には階下で見張をするように告げ独りで二階に昇り前記紙片(証第二号)を戸の隙間に挿し込み、あふり止をはねあげて事務室の扉を開き室内に入つた。一旦着替えてはみたものの、血がつけば証拠になり又捨てなければならぬと思い上衣、ズボンを脱ぎ、パンツ一つになつて、宿直室入口の硝子戸を静かにあけた。その物音に同室に寝ていた千葉は目を醒し、「誰ですか」と言い乍ら上半身を起した。そこで同被告人は二、三歩近寄つて「金を出せ」と作り声で言つたが、同人は「金は一文もない」と答えたので、持つて来た棍棒を振り上げ、同人の頭をめがけて力まかせに殴りつけた。同人はその一撃で倒れたが更に数回頭部を強打し、よつて同人に前頭部、頭頂部等に長さ約四糎骨膜に達する打撲傷を含めた数個の傷を与え、右打撲による脳障害と失血とにより同日午前三時過ぎその場で死に至らしめた。そして被告人両名は同所で金員を物色したが見当らなかつた

第二、右千葉を殺害直後、被告人両名はその犯跡を蔽わんが為め死体の始末について協議した末、同館二階の大便所が当時破損して使用を禁止され、其の戸は釘付けとなつて居たので其処に入れることとし、被告人阿部は図書館用の釘抜(証第七号)で右大便所の戸を開け、其の間被告人安住は宿直室にあつたラヂオ(証第十三号)を事務室に運び、被告人阿部は持参した軍手をはめ、両名で死体を敷布団の侭右大便所迄引ずつて運び込み、右千葉の所持品を死体の上に抛り込み、防臭剤(証第十二号)をその上に撒き、更に金槌(証第八号)で右大便所の戸を外から釘づけにし以て該死体を遺棄した。

第三、右死体を遺棄した後、石巻市図書館には毎月二万円位の前渡金が市役所から交付されることを知つてゐた被告人両名はこれを窃取せんことを企て、その方法として同館職員遠藤和夫宛千葉名義で置手紙を書くことを謀り、事務室で先づ被告人安住に於て図書館用の罫紙に万年筆(証第十号)で書いてみたがうまく書けかなつたので幾回も書き損じた末「遠葉君急用があつて仙台に行つて来る、前渡金が出たら取つて置いてくれ、畳には手をつけないように」と書いたが、被告人阿部は安住の字ではまづいと思い、自ら同罫紙に鉛筆で「遠藤君、急用があつて小牛田え行つて来ます、若し前渡金が来るようでしたら現金に引換えて保管して下さい、宿直室の畳の上に殺虫剤を撒きましたから手をつけないで下さい、千葉」と書き、これを千葉の机に載せ其の上に図書館用の印(証第十一号)を置き、被告人安住の書き損じは全部丸めて同室の火鉢の中に入れて焼き(証第九号)被告人両名共そこを引揚げた。而して前記遠藤は二十三日午前八時半頃図書館に出勤して右の置手紙を見たので、市役所会計課から前渡金と宿泊料の金券二枚を貰い、平常はこれを一旦預金に入れる慣はしであつたが、前記の手紙により市金庫から現金で金二万八千二百八十一円を受取り同日午前十時半頃同館事務室内の千葉の机の真中の抽斗に入れて置いたところ、之を知つた被告人阿部は同日午後一時五十分頃までの間に右遠藤の隙を窺い右金員を窃取した

ものである。

右の事実中

冒頭摘示事実は

一、検事作成の被告人阿部の第一、二回供述調書

一、同 被告人安住の第二回、第五回の供述調書

一、司法警察員作成の石井玲子の第一、二、三回供述調書

を綜合して、これを認め

判示第一事実は

一、被告人安住の当公廷に於ける共謀の内容、千葉の死因を除き其の余の事実につき判示同旨の供述

一、検事作成の被告人阿部の第二、三、四、五、六回の供述調書

一、同 被告人安住の第二、三、四回の供述調書

一、起訴前の被疑者阿部正治に対する強盗殺人、死体遺棄、窃盗被疑事件の証人安住進の尋問調書

一、第三回公判調書(審理更新前)中の証人村上次男の供述記載部分

一、同 証人平塚静夫の供述記載部分

一、昭和二十五年十一月二十九日裁判所がなした石巻市図書館の検証調書(但被告人安住の供述部分を除く)

一、昭和二十五年十月二十四日鑑定人村上次男作成の被害者千葉正視に対する鑑定書中傷害の部位、程度、死因につき判旨に照応する記載並に同人の血液型はA型である旨の記載

一、医師小林達郎作成の血液型検査書中阿部正治の血液型はO型である旨の記載

一、昭和二十五年十月二十七日鑑定人村上次男作成の鑑定書中綿製黒色ズボン(証第四号)の左腓腸部にある人血液はA型であると推測される、血液は裏側(内面)から附着したものと考えるズツク靴(証第五号)の右側の底(第四趾又は第五趾の趾頭が当ると考えられる部)の浪型の凹所には血液が附着して居ると見做してよろしいと考えられる旨の記載

一、押収の書籍(破損ケース附)一冊(証第一号)、紙片(書籍ケースの破損した一部分)一枚(証第二号)、男物紺縞ズボン一着(証第四号)、黒ズツク靴(不揃)一足(証第五号)の存在を綜合してこれを認め

判示第二事実は

一、被告人安住の当公廷に於ける供述

一、検事作成の被告人阿部の第五回の供述調書

一、同 被告人安住の第二、三回の供述調書

一、昭和二十五年十一月二十九日裁判所がなした石巻市図書館の検証調書(但被告人安住の供述部分を除く)

一、富士溪猛雄作成の鑑定書

一、押収の釘抜一挺(証第七号)、金槌一挺(証第八号)、防臭液空瓶一個(証第十二号)、ラヂオ一台(証第十三号)の存在を綜合してこれを認め

判示第三事実は

一、被告人安住の当公廷に於ける供述

一、検事作成の被告人阿部の第一回、第六、七回の供述調書

一、同 被告人安住の第一、二回、第四回供述調書

一、第五回公判調書中の証人遠藤和夫の供述記載部分

一、焼残り紙片八枚(証第九号)、万年筆一本(証第十号)、石巻市図書館長職印一個(証第十一号)、現金二万八千二百八十円及び謄写板用原紙三枚(証第十五号)の存在

を綜合して、これを認むる

よつて判示事実はすべて其の証明十分である。

法律によると、被告人等の所為中判示第一の強盗殺人の点は刑法第二百四十条後段第六十条に、判示第二の死体遺棄の点は同法第百九十条、第六十条に、判示第三の窃盗の点は同法第二百三十五条、第六十条に各該当するところ、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるけれども被告人阿部に対しては判示第一につき所定刑中死刑を選び処断するを相当と認めるから同法第四十六条第一項に従い他の刑を科せず同被告人を死刑に処し、被告人安住に対しては判示第一につき所定刑中無期懲役を選び、犯罪の情状憫諒すべきものがあるので同法第六十六条、第七十一条、第六十八条第二号に則り酌量減軽を為した上、同法第四十七条、第十条、第十四条により犯情最も重き強盗殺人の罪の刑に法定の加重制限を為した刑期範囲内で同被告人を懲役十五年に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条に則り被告人両名をして其の全部を連帯して負担せしむべきものとする。

尚被告人安住の弁護人菊地養之輔は、判示第三の窃盗につき、被告人安住は自ら任意に中止したものであると中止未遂を主張するけれども、右は前記第三に認定したように相被告人阿部が前渡金を窃取した後之を保管して呉れるよう話された際同被告人が之を拒んだというのであつて、このことは同被告人の供述によつても明らかであり既に犯罪成立後のことであるから弁護人の右の主張は採用出来ない。

よつて主文の通り判決する。(昭和二六年六月二八日仙台地方裁判所石巻支部)

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